<2024年4月>
発達障害を持つ子の親御さんから、
「運動会が苦手」
という声をよくお聞きします。
ダンスを踊らない。うまく踊れない。
運動会の練習が辛いみたい…
運動会に参加したがらない。
嫌がるけど、休むのはダメ?
そんなお悩みをお持ちではありませんか?
この記事をお読みいただくと、
について知って頂くことができます。
お子さんに適切なサポートをしたり、上手に導いてあげることで、運動会を素敵な経験の場にしてあげられるといいですね。
この記事を書いている私さとは、ASD+ADHDを持つ男子学生の母です。
息子はまさに運動会が苦手なタイプ。
幼稚園や小学校と連携を取りながら、毎年運動会を乗り越えてきました。
今でも運動会は「だるい。」と言いながら参加しています(笑)。
「運動会が苦手」の理由
運動会には、発達特性を持つ子が苦手とする要素がたくさんあります。
理由1 ダンスや組体操など苦手な演目がある
コロナの影響で、組体操を行う学校は随分減ってきました。
ダンスは体育のカリキュラムに組み込まれていることもあり、運動会で取り入れる学校が増えているのではないでしょうか?
発達障害を持つお子さん全員ではありませんが、
- お手本を見ても、どのように体を動かしているのかわからない
- 動きがぎこちなくて、同級生にからかわれる
- 「ふざけている」「やる気がない」などと叱られる
ダンスの練習をしていて、このような辛い経験をしたお子さんもいると思います。
この原因として考えられるのが、発達性協調運動障害です。
発達性運動強調障害は、手先の不器用さや運動技能の弱さなどが特徴とされる発達障害の一種です。
ASDやADHD、LD等の発達障害には、発達性強調運動障害を合併する子が多いと言われています。
発達性協調運動障害を持つ子は、不器用さや運動技能のつたなさが早期から極端に現れるのが特徴です。
不器用や運動音痴は、一般に広く該当する人がいますが、「極端で」「日常生活に支障をきたしている」ような場合には、この障害に該当します。
※これらの例に該当しても発達性運動強調障害にはあたらない場合も多いので、目安程度にご覧ください。判断には医師による診断が必要です。
また、靴ひもや箸、逆上がり、自転車などはできるようになる時期に個人差があります。単に時期が遅いからと言ってこの障害に該当するわけではないことも付け加えておきます。
理由2 集団行動が苦手
発達特性のある子の中には、根本的に集団行動が苦手な子も多くいます。
- 「みんなと同じ行動」とはどういう行動なのかわからない
- そもそもどうして集団行動をとらなければならないのかわからない
という子もいます。
感情コントロールやコミュニケーションをとることが苦手で、チームやペアでの競技が難しい場合もあります。
理由3 競技の内容が分かりにくい
発達障害を持つ子の中でも、目から入ってくる情報を受け取るのが得意なタイプの子は、
- 耳で聞いた説明は頭の中からすぐに消えてしまう
- 情報を目で見ることができると解りやすく、安心する
という特徴があります。
教室での日常的な活動とは全く異なる慣れない活動について、口頭で説明されるため、頭に入りにくかったり、イメージを持ちにくかったりする場合があります。
理由4 「見通しが立たない」ことから生ずる不安
「見通しが立たない」ことから生ずる不安は、
- 運動会当日
- 練習を始めて間もない頃
に主に問題となります。
ASDの人は「想像力の乏しさ」を特性として持つ人がおり、ASDの子供は経験したことのない状況や場所に置かれると、これから何が起こるのかがわからず不安になり、混乱してしまうことがあります。
発達障害を持たない人が想像する以上に、大きな負担なのだそうです。
そのため、次に何が起こるのかわからず不安になって、何かに固執したり、活動を嫌がったりします。
このように次に起こることがわからない状態を「見通しが立たない」と表現します。
ASDのもう一つの特性である「こだわり行動」も、同じ行動を繰り返すと見通しを持てて安心する、という心理状態によって行われると考えられています。
運動会当日や練習しはじめの頃、
- 活動を頑なに拒否する
- 些細なことで怒ったり、感情のコントロールが難しくなる
- 運動会とは関係ないことを頑なにやろうとする
このような行動が見られたときは、お子さんが見通しが立たず、不安で困っているのかもしれません。
理由5 感覚過敏
運動会では、視覚・聴覚・触覚などから様々な強い刺激を受けるので、感覚過敏の人にとっては辛い状況となる場合があります。
「感覚過敏」とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの感覚が過敏で、日常生活に困難を抱える状態のことを言います。
感覚過敏のない人には理解することが難しく、「神経質だ」「大げさ」と取られたり、そもそも苦しんでいる状況に気づいてもらえなかったりするので、感覚過敏を持つ子は我慢を強いられ、辛い思いをすることがあります。
例えば聴覚過敏の人にとって運動会では、
- 周囲の応援の声
- スピーカーから流れる音楽やアナウンス
- 徒競走のピストルの音
が強い刺激となり、苦痛を感じたり、頭痛や吐き気など体調が悪くなったりします。
「運動会が苦手」へのサポート
これまで「運動会が苦手」な理由について見てきましたが、これに対してできるサポートはどんなことでしょうか。
保護者の行動のポイント
保護者が取れる行動としては
- 体調を整える、リフレッシュさせる
- 子供の運動会についての話を聞き、気持ちを受け止める
- 子供が困っている様子や苦手なことがあれば先生に伝えて相談する
- 先生に子供の特性に合ったサポートをお願いする
以上のようなことが考えられます。
サポートを決めるのは先生の役割
上にあげた1から4のうち、4の「サポートを先生にお願いする」については注意が必要です。
どのようなサポートを行うかは、子供の様子や人員の配置、種目の内容を見ながら先生が決めるので、保護者が具体的なサポートをお願いしたとしてもそのサポートをするかどうかは先生の判断次第だということです。
個人的な経験からは、3の「困っている様子や苦手なことを先生に伝えて相談」をした後は、先生に任せて子供の様子を見守るというのが、現実的だと感じます。
その際、前年の運動会までにサポートしてもらってうまくいったことや主治医や専門家のアドバイスを伝えると、先生もサポートの中に取り入れやすいようです。
気持ちを受け止めるだけで解決する場合も
「悔しい思いをした」
「毎日しんどいけど頑張っている」
という気持ちをお子さんが保護者の方に受け止めてもらえるだけで、頑張れる場合もあります。
対策を立てる前に、まずは子供の気持ちを否定せず、しっかり受け止めてあげることが大切です。
サポート① 苦手なことを先生に相談
苦手な理由①の「ダンスや組体操が苦手」な理由が発達性協調運動障害にある以上、練習によって改善することはあっても、劇的に上手になることはありません。
運動会の練習が始まる前(ダンスの振りを先生が考える頃)の段階で、どんなことが苦手なのか、早めに先生にお知らせして相談しておくことが有効です。
必ずやってもらえる…というわけではありませんが、
という可能性もあります。
そして、何より
これだけでも非常に意味がありますね。
また、「ダンスが苦手で周囲の目を気にしている」という相談をしておけば
ということも期待できます。
その他にも、お家で動画などを見て一緒に練習する、という方法もあります。
ただ、お子さんは「練習が辛い」と思っているので、お家での特訓はあくまで本人が「やりたい」「上達したい」という意欲がある場合にとどめておきたいものです。
サポート② 視覚支援
ダンスであればこのようなサポート方法が考えられます。
サポート③ 「見通しが立たない」には予行演習と過去の動画
理由4の「見通しが立たないことから」生ずる不安が強い場合には、本番の様子を想像しやすくなるようなサポートが有効です。
予行演習は場所や流れの確認はできるのですが、本番ではお客さんの声援や視線もあるので、本番とはやはり違います。
サポート④ 感覚過敏はサポートグッズと静かな場所での休息を
最近では徒競走のスタートの合図を、ピストルではなく笛などに替えてくれる学校もあるので、先生に相談してみるのもよいですね。
難しければ、ノイズキャンセラーなどのサポートグッズを使う手もあります。
競技中ははずれたりして難しいかもしれませんが、応援や待機中に使うことを考えても良いでしょう。
出番の合間には、静かで人の少ない場所で休ませてもらうと、楽になる場合もあるので事前に先生に相談しておきましょう。
どうしても参加するのが嫌な場合、欠席はアリ?
運動会でのサポートをご紹介してきましたが、このようなサポートをしても
「運動会に参加したくない」
とお子さんが言う場合には、どのように対応したらよいのでしょうか。
まずは参加したくない気持ちを受け止める
「行く」「行かない」というジャッジを保護者の方がする前に、
まずは「参加したくない」という子供の気持ちを受け止めることが大切です。
運動会に向けて練習を重ねていく中で、園や学校では運動会に向けて「頑張ろう」とみんなの気持ちが高まっています。
そんな中で、「参加したくない」と保護者の方に話したお子さんは、大きな不安や罪悪感、焦りを感じているかもしれません。
それを超えて「参加することができない」と思い、保護者の方に勇気を振り絞って話をしているお子さんの気持ちを、一度受け止めてあげることがまずは一番大切です。
受け止めるというのは、すぐに「休んでいいよ」と認めることではなく、「君の気持ちはそうなんだね。」と、とりあえず否定せずに気持ちを受け止めることです。
<とりあえず受け止めることの大切さ>
保護者の方は「運動会に参加したくない」と言われて、ショックかもしれません。
「これから毎年欠席すると言い出したら…」などと、色々先のことを考えてしまうかもしれません(私も同じ経験があるので解ります)。
ただこのようなときは、ピンチのようであって実は大きなチャンスです。
「辛いことを話せば受け止めてもらえる。」
「自分が勇気を出していったことを否定せずに尊重してくれた。」
「困ったことがあっても、相談すればどうにかなる。」
親子の間に、こんな信頼関係を築くことが出来たら、この先、もっと大変なことが起こっても、お子さんは親御さんに気持ちを話したり、相談しながら乗り越えていくことができるでしょう。
私は今、思春期真っただ中の息子を育てていますが、この「親子の信頼関係」と「困ったときに相談する習慣」にとても助けられています。
思春期になれば、発達特性を持つ子といえども、親の手の届かない場所で活動することがどんどん増えてきます。
大学生や社会人になれば、もう親が口を出すことはほとんどできなくなるでしょう。
そんな時に役立つのが、「自分の力では対処が難しいと感じた時には親や信頼できる人に相談する」という習慣と親子の信頼関係です。
「運動会に参加したくない」と言われると、親も孤独で不安になります。
ですが、お子さんの声に耳を傾けて気持ちを受け止めてあげることで、その経験が後の自分たちの背中を押してくれることになると思います。
参加したくない理由を聞く
お子さんが落ち着いた状態のときに、運動会に参加したくない理由を聞いてみましょう。
- 何か困ったことがあるのか
- 運動会についてどう思っているのか
お子さんの言葉を遮ったり、自分の意見に誘導したりせず、ゆっくりと聞いてあげることが大切です。
その上で、どうすればいいかを一緒に考えてあげてください。
自分が運動会に参加させたい理由を見つめなおす
運動会に参加させるかを考える際は、保護者の方ご自身が、
「どうしてお子さんを運動会に参加させたいのか」
について、見つめなおすことをおすすめします。
「出席するものだ」という固定概念や「ほかの保護者の目」に囚われていませんか?
最も重視すべきは、参加する子供の気持ちです。
確かに運動会は子供にとって良い面がたくさんあります。
良い思い出を友達と共有できる。クラスの団結をはかり一体感を感じられる。役割の分担の大切さ、難しいことにも頑張るチャレンジ精神など、得られるものも多いでしょう。
ですが、運動会に参加しなければ、それは得ることができないものでしょうか?
他の行事でも得られるかもしれませんし、本人がやる気になって臨んだ次の年の運動会で得られるのかもしれません。
団結心やチャレンジ精神…などは、自分の意思で主体的に参加した場合に得られるものです。
以前私は、「今年の運動会を休んでしまうと、来年も休む…となるのではないか。」と心配したことがありました。
ですが、結局それは取り越し苦労でした。
子供は年々成長していきます。種目が変わったり、成長して辛いことが減ってくれば、来年は参加したくなるかもしれません。
反対に、今年無理をして運動会に参加し、辛い思いばかりが残ると、来年からは参加できなくなるかもしれません。
来年どうなるか…は、今はわからないことです。
運動会は、保育園や幼稚園、小・中・高校で、合わせると15回以上もあるんですね。
息子はもう残り数回になりましたが、振り返ると1回の運動会はただの通過点にすぎません。
長い目で見れば、運動会に参加できなかったとしても、悩みを相談して、周囲の大人が味方になってくれた、一緒に考えてくれた、という実体験は、お子さんにとって大きな力になると思います。
参加するのか、欠席するのか、見学するのか、種目を限定して参加するのか。
ケースバイケースで簡単に答えが出ないですが、お子さんの気持ちを大事にし、必要なサポートをした上で出した結論であれば、あまり大きく道を踏み外さないのではないのかと思います。
いかがでしたか?
この記事が、少しでもあなたのお役に立てばうれしいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。